将棋・小山怜央さんプロに 棋士編入試験合格 地元歓喜「釜石の誇り」「勇気もらった」


2023/02/17
釜石新聞NewS #地域

小山怜央さんの勝利を祝って万歳!釜石に歓喜が広がった=13日

小山怜央さんの勝利を祝って万歳!釜石に歓喜が広がった=13日

 
 釜石市出身で将棋のアマチュア強豪、小山怜央さん(29)=横浜市=は13日、大阪市の関西将棋会館で行われたプロ棋士編入試験5番勝負の第4局に勝利し、通算成績を3勝1敗として合格を決めた。4月1日付でプロ棋士の四段になる。棋士養成機関「奨励会」の未経験者として初の試験合格者。岩手県出身者としても初の棋士となり、地元では歓喜の声が広がった。
  
 通常、プロ棋士となるには、26歳までに奨励会で四段に昇段する必要がある。編入試験は奨励会とは別にプロを目指す制度。アマ出場枠があるプロ公式戦で一定の成績を収めれば受験資格を得られる。試験は若手棋士5人と対戦し、3勝すれば合格。小山さんは昨年11月の第1局で徳田拳士四段(25)、12月の第2局で岡部怜央四段(23)を連続で破ったが、今年1月の第3局では狩山幹生四段(21)に敗れ、2勝1敗となっていた。
  
 この日は、振り飛車党の横山友紀四段(23)と対局。先手番の小山さんは、「四間飛車」と得意の戦型で構える横山四段に対抗すべく「居飛車穴熊」に駒を組み、戦機をつかんで序盤から優勢に進めた。中盤に形勢が接近した場面もあったが動揺せずに立て直し、粘る横山四段を133手で振り切った。
 
中妻地区生活応援センターで行われた大盤解説会=13日

中妻地区生活応援センターで行われた大盤解説会=13日

 
解説を聞きながら戦況を見つめる釜石市民ら=13日

解説を聞きながら戦況を見つめる釜石市民ら=13日

 
 「よし、やった」「強い」。午後3時半過ぎ、釜石市上中島町の中妻地区生活応援センターで大盤解説を聞きながら戦況を見守っていた小山さんの父・敏昭さん(60)、母・聖子さん(60)、将棋愛好者ら約25人から拍手と歓声が湧き起こった。幼少期の小山さんに将棋を教え、大盤解説を務めた日本将棋連盟釜石支部長の土橋吉孝さん(67)は「相手を研究した手順でうまく仕掛けた。横山さんが序盤で1時間半使ったところ、怜央は15分でとどめ、優位に立てた」と勝因を挙げた。
  
 小山さん優位で進んだ第4局だが、小山さんの〝意外な手〟で緊張感が走る展開に。土橋さんは「気分的には嫌なところ。震えかな。もっと良くしようと考えすぎ、うっかり見落としてしまった」と推測した。一時接戦になりながらも、冷静に指し回す小山さんの様子に「ミスをしても崩れない。気持ちを切り替え対局に臨んでいる。いける」と確信。「怜央は終盤に鮮やかな寄せを見せる。時間で差がついているので気持ちを切らずにつなげれば、楽しみはある」「攻めるは守りなり。息を吹き返した」「大丈夫ですよ」と解説を続けた。
  
タブレットを手に戦況を見守る小山さんの父敏昭さん(右)、母聖子さん=13日

タブレットを手に戦況を見守る小山さんの父敏昭さん(右)、母聖子さん=13日

 
勝利を信じ、祈るように解説に耳を傾ける人も=13日

勝利を信じ、祈るように解説に耳を傾ける人も=13日

  
 集まった人たちは硬い表情で祈るように盤面を見つめていたが、土橋さんの読み通りに〝勝ち〟が決まると、「おめでとう」「やったね」と祝福の言葉が飛んだ。聖子さんは「うれしい。ずっとハラハラ、心配で心配で仕方なかった。好きなことを仕事にして、今からまた頑張れるね。釜石に帰ってきたら、おいしいもの、好きなものを食べさせてあげたい」と目を赤くした。
 
快挙を喜ぶ(左から)聖子さん、土橋さん、敏昭さん=13日

快挙を喜ぶ(左から)聖子さん、土橋さん、敏昭さん=13日

 
「おめでとう」。勝利に拍手を送る将棋愛好者ら=13日

「おめでとう」。勝利に拍手を送る将棋愛好者ら=13日

 
 小学2年生の頃に将棋を始めた小山さん。高校2年生だった2011年3月、東日本大震災で鵜住居町の自宅を失い、避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされたが将棋を続け、岩手県立大在学中の14年に学生名人に。その後は将棋講師をしながら「プロ棋士」という夢を胸に抱き続けてきた。敏昭さんは「避難所で弟と将棋を指している光景を思い出した。好きなことを諦めず頑張ってきた本人の努力と周囲の方のおかげ。よく頑張った。息子ながら褒めたい」と喜びをかみしめた。
 
 会場には野田武則市長も駆け付け、「岩手初のプロ棋士誕生は釜石の誇り」とたたえた。地元の愛好団体「正棋会」で将棋を楽しむ定内町の吉光島司さん(74)は「岩手の将棋界に一つの光を照らした。釜石は人口が減り寂しさを感じることもあるが、『ここでもやれるんだ』と勇気をもらった。小山君は粘りがすごいし、強い。負けていられない」と目を細めた。
  
大盤解説した土橋さん。「さらに上を目指し精進を」と激励=13日

大盤解説した土橋さん。「さらに上を目指し精進を」と激励=13日

 
 土橋さんは「彼は昔から本当に将棋が大好き。へこたれず努力してきた。報われて良かった」と感慨に浸った。さらに、「怜央は麦踏みのように太く丈夫に育った。底力、地力をつけ、はるかに強くなっている。行けるだけ上を目指し精進を」とエール。そして、これに続く釜石、岩手の子どもたちの成長にも期待し、「伝統文化をつなげる手伝いも一緒にしてほしい」と望んだ。
  
小山さんのプロ棋士編入試験合格を祝って釜石市役所に設置された懸垂幕=14日

小山さんのプロ棋士編入試験合格を祝って釜石市役所に設置された懸垂幕=14日

  
 「祝 岩手出身初!! 将棋プロ棋士誕生へ」。試験合格から一夜明けた14日には、快挙をたたえる懸垂幕が市役所第1庁舎(只越町)に掲げられた。庁舎を訪れた人たちが立ち止まって見上げ、祝福ムードを広げている。
 
 

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