挑戦!色の“ない”世界を“ある”に 生活体験発表大会で知事賞 釜石高定時制・大里菜々美さん 全国大会へ
全国大会に向け練習する大里菜々美さん(写真左)。原稿には学校生活で得た学びや気付き、思いをつづる(写真右)
岩手県内の定時制、通信制高校に通う生徒たちの「生活体験発表大会」で、「色」と題して語った釜石高定時制2年の大里菜々美さんが最優秀の知事賞に輝いた。不登校だった小中学校時代の6年間は「色のない世界」。高校生となった今は、新しい仲間との出会いや三つの「挑戦」を課すことで前向きに生きている。「人生を彩るのは『挑戦』。どんな色を塗っていこう。想像するだけで胸が高鳴る」。本県代表として全国大会に臨む大里さんは、かつての自分と同じような境遇の人たちにそう語りかけるつもりだ。
県大会は今年で72回目。9月に盛岡市で開かれ、定時制や通信制のある高校9校から12人が出場した。7分の持ち時間で、自身の体験や思いを語って最高賞を手にした大里さん。釜石高の前身、釜石南高時代を含め初めての受賞で、関係者らは喜びを口にする。
県大会の賞状を手にする大里さん。トロフィーのペナントリボンに初めて「釜石高定時制」の名が残る
大里さんは全国大会に向け、日々練習中。国語科担当の伊藤裕美教諭が付き添い、間の取り方などを助言する。「(大里さんは)本番に強い。淡々としているが、強い意志を感じる語り。滑舌がいい」と評価。原稿を暗記して読み上げるのではなく、「自然に話しているように言葉が出てくるようになれば」と見守る。
担当教諭に助言をもらいながら練習を重ねる大里さん
「困難なことに立ち向かうことは、面倒なことでしかなかった。だから挑戦から逃げてきた」。小学4年生から休みがちになったという大里さん。陸上記録会の選手候補になったり、校内の広報委員長に推されたり、挑戦しなければならない局面になると、逃げるように休んだ。そして「本格的に不登校になった」。中学校にはほとんど行かなかった。
時間や曜日の感覚が曖昧な昼夜逆転の生活。逃げ続け、たどり着いたのは「色彩のない世界だった」。真っ暗な夜中に目を覚ましては、孤独感に涙した。そんな白黒の世界の中で、自問自答する日々。「このままでいいはずがない」。焦りを感じるようになった中学3年、高校受験が近づいた。「生活を変えたい。彩りのあるものにするためには挑戦する勇気を持たなくては」。環境を変えようと、地元遠野市の隣町釜石市にある釜石高定時制を受験。自宅から列車などで約50分かけて通う日々が始まった。
「やってみる」という一つの挑戦だった高校生活も2年目に突入。これまでに▽生徒会の役員になる▽接客が必要なコンビニでアルバイトをする▽学校を休まない―という三つのことに挑戦した。1年生で生徒会の会計係になり、今年の後期には自ら手を挙げて生徒会長になった。「リーダーに向いているとは思わないが、集団の先頭に立つ経験をし、成長したい」。アルバイトは1カ月だけだったが、無遅刻無欠勤でやり遂げた。「やればできる」と分かった。そして1年間休まず学校に通い、最大の目標、皆勤賞を手にした。「強くなれた。変われた」と実感。皆勤は今も続けている。
なぜ、かつて学校から逃げたんだろう?―「失敗するのが怖かったんだ」と振り返る。挑戦できるようになった今思うことは…「大切なのは成功することではない。経験が財産になる。人生を彩るのは、挑戦そのものだ」
大里さんは思いを込めた言葉を紡ごうと練習に励んでいる
「全国か…」。知事賞を受けた気持ちを聞いた時に大里さんがこぼした一言。喜びより逃げ腰かと一瞬感じられたが、「ガチガチに緊張するタイプ。周りに圧倒されないようにしたい」と自己分析していたからだった。これまでの生活を振り返りながら原稿を考える過程で、前向きな気持ちになったと言い、「『失敗してもいいや』。そう思うと、怖いものなしで生きられちゃう」。本番での強さにつながる「心の強さ」が伝わってきた。
友達との交流を楽しむ大里さん(左)。彩り豊かな学校生活を実感する
「大会では一人芝居のように発表する人が多いが、自分にはハードルが高い。ただ言葉を紡いで発する感じだけど、私らしく思いを伝えたい」
また一つ挑戦を重ねる大里さん。人生というキャンバスに新たな色を加える全国大会は11月20日、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ(東京)で開かれる。
釜石新聞NewS
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