2基のみこし、曳き船に市民ら感涙 3年ぶりの釜石まつり コロナ禍からの復活に力
釜石まつり(尾崎神社、日本製鉄山神社合同祭)=16日、薬師公園御旅所
釜石市浜町の尾崎神社と桜木町の日本製鉄北日本製鉄所釜石地区山神社の合同祭「釜石まつり」(同実行委主催)は14日から3日間にわたって行われた。新型コロナウイルス感染症の影響で中止が続いていた同市最大の秋祭りが3年ぶりに復活。15日は釜石湾内で曳き船まつり(尾崎神社海上渡御)、16日は市中心市街地で両神社のみこし渡御を繰り広げ、まちに活気をもたらした。参加者、観客ともに大きな喜びに包まれ、地元の宝を再認識。コロナ禍からの脱却に大きな弾みをつけた。
曳き船まつり(尾崎神社海上渡御)は4年ぶりの開催=15日、釜石港
尾崎神社奥宮のご神体をみこしに迎え、海上を渡御する曳き船まつりは、江戸時代から続く伝統神事。海上安全や豊漁などを祈願する。コロナ前の2019年も悪天候で中止されたため、今回は4年ぶりの開催。魚河岸の市魚市場前から出港した14隻の船団は尾崎半島青出浜にある奥宮にご神体を迎えに行き、午後0時半ごろ帰港。大漁旗をなびかせた各船は港内を3周した。船には神楽や虎舞の郷土芸能団体が乗り込み、にぎやかなおはやしや舞を披露。みこしを乗せた御召船第18宝生丸(釜石湾漁協)が岸壁に近づくと、見物客が手を合わせた。
色とりどりの大漁旗をなびかせ進む漁船=釜石市魚市場前
船首でちょうちんを掲げ、舞を見せる錦町虎舞
船が岸壁に近づくと、互いに手を振ったり声を掛け合ったりした
北上市の川﨑千鶴子さん(61)は「震災前に見て以来。コロナで気持ちが落ちている時だけに気分が上がる。浜ならではの威勢の良さも魅力」と大喜び。釜石・甲子町に暮らす義母妙さん(84)は「いい天気に爽やかな海風。最高の祭り日和。若いころは自分も船に乗った。その時のことが懐かしく思い出される」と息子夫婦と心を躍らせた。
第18宝生丸の乗組員大向孝哉さん(60)は久しぶりの高揚感を味わい、「毎年のことだから、やっぱりこれがないとね。コロナを吹き飛ばすような活気」と復活を歓迎。サケ、サンマ、イカと不漁続きで漁業は厳しい状況に置かれるが、「とにかく魚がとれることを願うばかり。尾崎の神様に海の環境回復を祈る」と思いを込めた。
海上渡御を終えたみこしは浜町の尾崎神社里宮へ
両神社の合同みこし渡御には郷土芸能9団体を含む約800人が参加。鈴子町の釜石消防署脇駐車場で合同祭の神事を行った後、午後0時半ごろ行列が出発。大渡町から魚河岸まで市中心部の目抜き通りを2基のみこしが練り歩いた。先導した郷土芸能団体は大町から只越町間の路上で演舞を披露。沿道に詰めかけた大勢の観客の前で魂のこもった舞を見せた。
大渡町を練り歩くみこし渡御行列(右下拡大:平田神楽)=16日
東前太神楽も頭をつけて舞いながら進む
親子虎共演!幼児の舞い手も活躍した尾崎町虎舞
薬師公園御旅所で神事を行った両神社のみこしは、並んで通りをゆっくりと進んだ。出迎えた観客はさい銭をあげてみこしに手を合わせ、地域の守り神に感謝。家内安全、商売繁盛、コロナ禍で落ち込んだ景気回復などそれぞれの願いを胸に、異彩を放つみこしを見つめた。
尾崎神社(右)と日本製鉄山神社のみこし。3年ぶりの合同渡御が実現
沿道では大勢の市民らが行列を見守った=大町
小佐野町の佐々木興子さん(78)は「例年より人出も多いよう。お祭り女だからわくわくする」と笑顔満開。いつもは釜石芸能連合会の手踊りで参加するが、今年は同会の参加見送りで観客側に。「人口減少、高齢化も進むが、祭りで釜石が元気になってほしい。次回、参加できるように自分も元気でいたい」と願った。
8月に北九州市から転勤してきたテツゲンの早田大輔さん(36)は初めて同山神社のみこし担ぎに参加。震災やコロナの苦境から立ち上がってきた釜石人の底力に感動し、「皆さんの笑顔が印象的。よそから来た人間も温かく迎えてくれる市民性がありがたい。釜石にいる間はぜひ参加したい」と声を弾ませた。
虎舞、神楽の参加団体は山車を引きながら移動
行列は市役所御旅所を経て午後2時半ごろ、魚市場御旅所に到着。神楽、虎舞の6団体が最後の踊りを奉納し、祭りはクライマックスを迎えた。例年行う「大盃の儀」はコロナ感染予防のため取りやめ、代わりに参加者の3本締めで締めくくった。尾崎神社のみこしはご神体を奥宮にかえすため船に乗せられ、神楽、虎舞団体がはやし立てる中、岸壁を離れた。見送りは船が見えなくなるまで続いた。
2歳から祭りに参加する錦町虎舞の阿部龍雅君(16)は「みんなで盛り上がれる祭りはめっちゃ最高。今年はいつも以上」と祭り復活の喜びをかみしめた。踊りの練習は厳しいが、「どんどん頑張ってうまくなりたい。大人になったら踊りを教えられるような、みんなを引っ張っていけるような人になりたい」と夢を描いた。
魚市場御旅所ではみこし還御式が行われ、年行司太神楽など6団体が演舞
「白虎」で躍動する只越虎舞
奥宮にかえるご神体を神楽、虎舞の団体がおはやしで見送った
尾崎神社の佐々木裕基宮司は「沿道でみこしに手を合わせ、ずっと頭を下げられている方もいて胸が熱くなった。震災の年に涙を流して拝んでくださった姿と重なる。祭りを待ち望んだ皆さんの喜びがあふれていた」と目を潤ませた。同神社は300年以上の歴史を誇る六角大みこしを70年ぶりに修復、19年の渡御で初披露した。今回はコロナ禍で担ぎ手の確保が難しいことや、大人数による密回避を考慮し、大みこしの渡御は見送った。「来年こそはコロナが終息し、大みこしが練り歩ければ」と佐々木宮司。
同まつり委はコロナ感染状況や市内経済などへの影響を総合的に判断し、規模縮小、各種感染防止策を講じた上での開催を決めた。事務局によると曳き船まつりは約3千人、みこし渡御は約1万2千人の人出があった。両日とも混乱や事故もなく無事終了した。
釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム