釜石の音楽文化継承へ決断の一歩 「市民合唱祭」感染症対策施し3年ぶりに開催
2年の中止を経て再開された「釜石市民合唱祭」
第42回釜石市民合唱祭(市、市芸術文化協会、市合唱協会主催)は2日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。新型コロナウイルス感染症の影響で一昨年、昨年と開催が見送られてきたが、同市が誇る合唱文化を絶やすまいと、感染防止対策を施しての実施を決断。3年ぶりのステージが実現した。市内で活動する8団体約100人が出演し、再開を待ち望んだ観客と喜びの時間を共有した。
同祭は、釜石市内で活動する合唱団体や高校音楽部が一堂に会する年1回の発表の場。市民芸術文化祭の発表部門の一つとして位置づけられる。初演は1978年12月。同ホールの前身「釜石市民文化会館」の落成を記念して開催されたのが始まりで、翌79年4月に市合唱協会が設立された。
長い歴史を誇る同祭だが、感染症が原因での2年連続の中止は異例のこと。収束が見通せない中で、各団体の活動意欲を維持し、釜石の合唱の灯(ひ)をともし続けるためには発表の機会は不可欠と、同協会は開催への道を模索してきた。各団体が日々の練習から基本的な予防策を忠実に実行すること、ステージでもマスクを着用し、間隔をとって並ぶことなどを申し合わせ、開催にこぎ着けた。参加団体は3年分の思いを胸に、女声合唱や混成合唱などで美しいハーモニーを響かせた。
親と子の合唱団ノイホフ・クワィアーは今年で創立45年。3月のコンサート後、44年在籍した団員が急逝するという深い悲しみを経験した。この日は3月に共に歌った「群青」「未来へ」の2曲を歌唱。小澤一郎代表(45)は「きっと会場のどこかで一緒に歌ってくれていたと思う。唯一の大先輩で、多くのことを学ばせてもらった。教えを受け継ぎ活動していきたい」と誓いを新たにした。
亡くなった先輩団員への思いを胸に声を合わせるノイホフ・クワィアー
釜石童謡を歌う会は平均年齢76歳。手話を交えた「小さな世界」と、花がテーマの曲でメドレーを聞かせた。現在、3人で活動中の釜石高音楽部は「AVE MARIA Ⅱ」をアカペラで、「パプリカ」を振り付きで発表。少ない人数で最大限の力を発揮した。昨年30周年を迎えた甲子歌う会は、地元ミュージカルで歌った「夢の街かまいし」などを披露。懐かしいまちの姿を思い起こさせるセリフの掛け合いも交え、楽しいステージを繰り広げた。
手話を交えた合唱を披露した釜石童謡を歌う会
一人一人が持てる力を発揮した釜石高校音楽部
セリフを盛り込んだ舞台で楽しませた甲子歌う会
大渡町の中村健勇さん(27)、真偉佳さん(26)夫妻は同祭に初めて来場。「マスクをしながらも皆さん、声がよく響いていて、きれいな歌声だった。知っている曲もあり楽しめた」と心地良い時間を堪能。コロナに負けず、頑張っている各団体に「元気をもらう。さまざまな困難の中でも活動をつないでいこうという姿勢は素晴らしい」と口をそろえた。
震災後に発足し、精力的に活動する鵜住居歌う会
各団体の発表を楽しみ、大きな拍手を送る観客
合唱協会の柿崎昌源会長(66)は「これ以上中止が続くと、釜石の合唱そのものが消滅してしまうのではという危機感もあった。(感染症を)怖がるだけでは何も解決しない、どんな形であれやってみようと準備を進めてきた。今回やり遂げたことは、みんなの自信にもなったと思う。次につながる一歩になれば」と願った。
釜石新聞NewS
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