夜の列車でサファリ気分を満喫!? 三陸鉄道 シカ被害逆手に初の運行企画


2022/07/20
釜石新聞NewS #観光

三陸鉄道が初めて運行した「ナイトジャングルトレイン」=9日

三陸鉄道が初めて運行した「ナイトジャングルトレイン」=9日

 
 生息域・数の拡大で人間の生活領域への進出が目立つ本県のニホンジカ―。衝突事故で列車の遅延や車両故障などの被害を受ける三陸鉄道(石川義晃社長、本社・宮古市)は、この現状を逆手にとった“シカ見学”ツアー列車を発案。9日夜、釜石―大槌間で初運行した。暗闇の中で野生動物を見つける非日常体験に乗客は大興奮。同社社員も驚く盛り上がりを見せた。
 
 若手運転士のアイデアで実現した企画列車は、その名も「ナイトジャングルトレイン」。シカの目撃が多い夕方から夜にかけて運行され、県内外から家族連れなど35人が乗車した。オリジナルヘッドマークを付けた列車は、午後6時45分ごろ、釜石駅を出発。まだ明るさが残る往路から、沿線の草むらでは複数のシカが見られた。
 
シカの顔がデザインされたオリジナルヘッドマークを付けた車両

シカの顔がデザインされたオリジナルヘッドマークを付けた車両

 
「いた、いた!」車窓からシカを見つける乗客

「いた、いた!」車窓からシカを見つける乗客

 
 車内では同社の金野淳一運行本部長が沿線に生息する野生動物について紹介。シカのほかキツネやタヌキ、クマ、キジなどさまざまな種類が見られる一方で、線路への侵入が列車運行に支障をきたしている現状も説明した。ゲストの盛岡市動物公園ZOOMOの辻本恒徳園長はニホンジカの生態について解説。草食のシカが2メートルのフェンスを飛び越えるような筋肉を持つ理由など、興味深い話が乗客を引き付けた。
 
シカの生態について教える盛岡市動物公園ZOOMOの辻本恒徳園長

シカの生態について教える盛岡市動物公園ZOOMOの辻本恒徳園長

 
 すっかり暗くなった復路では、最もシカが多く見られる山間ポイントの両石町水海地内で列車を低速走行。車内の明かりを消して乗客がライトで外を照らすと、目が光るシカの姿が各所で浮かび上がった。子どもも大人もシカ探しに夢中になり、ちょっとしたナイトサファリ気分を味わった。
 
窓を開け、ライトを照らしてシカを探す

窓を開け、ライトを照らしてシカを探す

 
線路沿いの草むらにたたずむニホンジカ=三陸鉄道社員が車内から撮影

線路沿いの草むらにたたずむニホンジカ=三陸鉄道社員が車内から撮影

 
 大船渡市から参加した田村恵佑君(5)は「6匹ぐらい見たよ。シカ、大きかった」と初めての遭遇体験にご満悦。母暢子さん(34)は「大船渡でもシカの出没はあるが、あえて見に行こうとはしないので、こういう機会は新鮮。夜の乗車やライトでシカを探すのも面白かった」と列車ならではの楽しさを実感。「また乗ってみたい」と親子で口をそろえた。
 
 「小さいのから大きいのまで、かなり見ました。人生初の経験」と笑う花巻市の小松義次さん(72)。三鉄社員の苦労やシカの生態など学びも深め、有意義な時間を満喫した。震災前は沿線の鵜住居町に暮らしていたこともあり、「懐かしくてね。車とは違う車窓の景色も楽しめた」と魅力いっぱいのツアーを喜んだ。
 
 同社によると、野生動物と列車の衝突はニホンジカが群を抜いて多く、釜石―宮古間がJRから移管された2019年度は同シカだけで126件と急増(前年度26件)。増加傾向は続き、21年度は最も多い162件の発生があった。線路内への侵入を防ぐネットの設置など対策も講じるが、完全には防ぎきれないのが実情。衝突時の後始末の労力や車両修理費用の負担も大きい。
 
車内では夕食の弁当が提供された

車内では夕食の弁当が提供された

 
大槌駅のホームでは停車時間に豚汁のサービスも

大槌駅のホームでは停車時間に豚汁のサービスも

 
 生態系に必要な野生動物と共存し、同鉄道の利用促進を図る今回のチャレンジ企画。車内での弁当提供、大槌駅での豚汁サービスを含む旅行代金は、いわて旅応援プロジェクトの割引適用で実質2500円。乗客募集には定員(35人)の倍の申し込みがあったという。金野運行本部長は予想以上の乗客の反応に、「こんなに喜んでもらえるとは。次回の開催もぜひ検討していきたい」と大きな手応えを感じていた。

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