まれに見るオオハクチョウの群れに感激 鵜住居川で水辺の鳥観察会
片岸公園遊歩道から水辺の鳥観察を楽しむ参加者
釜石市の鵜住居川河口周辺で15日、水辺の鳥観察会が開かれた。市生活環境課が行う環境保全事業の一環。県内有数の「野鳥の宝庫」として知られる同所は、2011年の東日本大震災の津波で大きな被害を受け、野鳥の生息状況にも影響を及ぼした。震災から10年となった昨年は、河川堤防の内側に片岸公園が完成。生態園をイメージした大きな沼地が整備され、複数種の野鳥が集う様子が見られている。
同観察会は1970年代後半から続けられる冬の恒例行事。震災後は新たな水門や防潮堤を建設する復興工事のため中止されてきたが、昨年度から再開されている。今回は一般市民と関係者14人が参加した。
釜石野鳥の会の会員に教わりフィールドスコープをのぞき込む子ども
釜石野鳥の会(臼澤良一会長、7人)の会員3人の案内で、片岸公園駐車場から観察をスタート。最初に目に飛び込んできたのは、三陸鉄道の線路近くの遊休地で枯れ草などをついばむオオハクチョウの群れ。羽が灰色の幼鳥を含め、20羽前後が見られた。この後、移動した同公園の沼地ではマガンとともに泳ぐ姿も。鵜住居川周辺上空を隊列を組んで飛ぶ光景も見られ、参加者は肉眼のほか、双眼鏡やフィールドスコープで追った。
餌を求め片岸町の遊休地に集まるオオハクチョウ
片岸公園の沼地でマガンとともに憩うハクチョウ
鵜住居川周辺を隊列を組んで飛ぶ姿も見られた
野鳥の会の臼澤会長(73)によると、観察会の1週間ほど前の時点で、同河川周辺で確認したオオハクチョウは約40羽。震災後、これほど多くの飛来は初めてで、「冬を越すのに適した生息環境が戻ってきているのではないか」と推測。2月末ごろまで見られそうだが、「決して餌付けはしないように。マナーを守って観察を」と呼び掛ける。
観察会ではこの他、同所で見られるのは珍しいハクガンも1羽確認。名前の通り全身が白いが、翼の先だけ黒色なのが特徴で、オオハクチョウと比べるとその大きさの違いがよく分かる。
鵜住居川でオオハクチョウと行動を共にしていたハクガン(左)。翼の先端が黒いのが特徴
さらにこの日、参加者を喜ばせたのが、鮮やかな体色で「飛ぶ宝石」と称されるカワセミ。頭から背中にかけての青色、腹部のオレンジ色のコントラストが目を引く留鳥。鵜住居川では昨年1月の「こどもエコクラブ」の野鳥観察会でも確認され、今回もその時と同じ場所、鎧坂橋近くで見ることができた。
約1時間の観察で確認された野鳥は28種類。種別ではガン・カモ類が最も多く、個体数ではオオハクチョウやオオバンの数が際立った。タカの仲間「ノスリ」、サギ、キジ、チドリなども見られた。
ヨシ原から飛び立つキジの姿も確認された
震災で被災し、山田町から同市定内町に移り住んだ佐藤幸博さん(71)は、初めて鵜住居川を訪れ、「こんな近場にたくさんの種類の鳥がいるとは驚き。環境が良い所なんでしょうね」。初めて生で見たカワセミの美しさにも感動し、「また見に来てみたい」と声を弾ませた。
鵜住居川河口周辺で行われてきた市主催の野鳥観察会では、震災前、最多で57種を確認した年もあり、自然環境の素晴らしさを裏付けた。震災の津波で、片岸海岸に隣接していた元の河口は失われ、川沿いに広がっていたヨシ原や樹木も全て流失。野鳥もすみかを奪われ、被災後数年間は見られる鳥の種類、数ともに激減した。現在の水門から上流は10年かけて植生がだいぶ回復し、それに伴って野鳥も増えてきた。
新設された水門から上流は鳥の隠れ家となる草地が回復してきた
昨年完成した片岸公園の沼地。震災前にあったミノスケ沼のように鳥が集まる場所になりつつある
臼澤会長は「ハクチョウやガンなど渡り鳥の飛来も増えてうれしい限り。これは鵜住居川の環境が整ってきた証拠。一方で、私たちに身近なスズメなどがあまり見られなくなったのが気になる。こうした変化にも気付いて環境保全への取り組みを考えていかなければならない」と話した。
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