苦難乗り越え40周年 釜石地方森林組合が記念行事 式典&東京大 鈴木俊貴准教授講演

釜石地方森林組合創立40周年記念式典で表彰された役員、協力事業者の代表
釜石地方森林組合(野田武則代表理事組合長、組合員1616人)の創立40周年記念式典は11日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。東日本大震災、尾崎半島林野火災と大きな困難を乗り越えてきた歩みを振り返り、支援者らに感謝の気持ちを表した。記念講演では、野鳥のシジュウカラが異なる鳴き声を使い分けて意志疎通を図っていることを発見した、東京大先端科学技術研究センター准教授の鈴木俊貴さんが講演。森の豊かさと人間との関係について考えるパネルディスカッションも行われた。
約700人が参加。式典で野田組合長は、震災で甚大な被害を受けた組合の復興を支えてきた多くの関係者、組合員に深く感謝。「森林を取り巻く環境はさまざまな課題を抱えるが、地域の宝である森林を大切に守り育て、地域に貢献できる組合としてさらなる飛躍を目指す所存」と決意を述べた。

記念式典の冒頭、森林組合綱領を唱和する組合員ら
同組合は1985年、釜石、大槌両市町の森林組合が合併して発足した。2011年の東日本大震災では、当時の組合長ら役職員5人が津波の犠牲となり、只越町にあった事務所が流失。組合存続の危機的状況の中、官民の指導、支援を受けながら復旧復興にまい進し15年、片岸町に新事務所を構えた。
事業再生にあたっては異業種の助言も受け、課題克服に取り組んできた。地域産業の未来を見据え、15年から5年間、人材育成のための林業スクールを開講。16年には新日鉄住金(現日本製鉄)釜石の石炭火力発電所に納入するバイオマス燃料の木材販売代金の収益の一部を積み立てる「釜石地域森林整備基金」を創設。組合員への助成で、森林整備にかかる負担を軽減する仕組みをつくった。17年に発生した尾崎半島林野火災の被災木活用も推進。釜石鵜住居復興スタジアムの建物や座席シートなどに使われたほか、各種木製品に加工された。持続可能な森づくり、森林資源の循環利用、組合員への利益還元など、同組合の先進的な取り組みは各方面から高く評価されている。
式典では、歴代代表理事組合長2人、長年、理事や監事を務めた組合員4人、協力事業者6人を表彰。震災後の組合事業を支えてきた10企業・団体に感謝状を贈った。釜石市と大槌町には記念品の目録が贈呈された。

第5代代表理事組合長を務めた久保知久さんに野田武則現組合長から表彰状を贈呈

震災後の組合を支援してきた10企業・団体に感謝状を贈呈。バークレイズ証券が代表して受け取った
被表彰者は次の通り。
【歴代代表理事組合長】久保知久(第5代、2期5年2カ月)、植田收(第6代、1期3年)
【役員】佐々木廣(理事、6期18年)、阿部公一(理事、7期21年)、山崎巍(監事、7期21年)、柏木公博(監事、8期24年)
【協力事業者】福浦正一、大萬梅治、久保正勝、齊藤義一、及川一男、小笠原松見
【企業、団体】バークレイズ証券、日鉄興和不動産、日本製鉄北日本製鉄所釜石地区、オカムラ、乃村工藝社・ノムラ協力会、千代田化工建設、SANU、大成建設、岩手県協同組合間連携協議会、連合岩手釜石・遠野地域協議会
「僕には鳥の言葉がわかる」 東京大 鈴木俊貴准教授(動物言語学者)が記念講演

シジュウカラに言葉があることを発見した東京大先端科学技術研究センターの鈴木俊貴准教授(右)。組合40周年記念で講演した
釜石地方森林組合の40周年記念事業として行われた基調講演。講師に招かれたのは、「動物言語学」という新たな分野で国内外から注目を集める東京大先端科学技術研究センター准教授の鈴木俊貴さん(42)。本県では初めての講演となり、組合員だけでなく一般聴講者も多数集まった。
幼い頃から生き物観察が好きだった鈴木さんは、高校生の時に始めたバードウオッチングで野鳥に興味を持った。研究ができる大学に進み、3年の冬に入った長野県の森で、シジュウカラが状況によってさまざまな鳴き声を使い分けていることに気付く。「シジュウカラにとって言葉になっているのでは」と考え、本格的に研究を始めた。講演では、録音した鳴き声や行動を捉えた映像を示しながら、森の中で20年以上続けてきた研究の成果について紹介した。

1年のうち長い時で10カ月以上森の中で調査を行うという鈴木准教授
シジュウカラは天敵が現れた時、餌を見つけた時、繁殖の縄張りを主張する時などで、異なった鳴き声を発するという。天敵の中でもヘビが迫っている時にしか出さないのが「ジャージャー」という鳴き声。1羽がこの声を出すと、周りにいる仲間は地面をじっと見るなどヘビを探すような動きを見せる。「頭の中にヘビをイメージしていることを証明できれば、『ジャージャー』は(シジュウカラにとって)ヘビを指す言葉(単語)であろう」。そう考えた鈴木さんは、録音した鳴き声を聞かせながらヘビに見立てた小枝を幹に沿って引き上げ、ヘビと見間違えるかどうかという実験を実施。ヘビに似ていない枝の動きも試したが、反応があったのは前者のみ。「ジャージャーという声は聞き手のシジュウカラの頭にヘビを思い描かせていて、ヘビを探す行動につながっていた。言葉は頭にイメージを呼び起こすものであることから、ジャージャーはヘビを示す言葉といえる」と鈴木さん。

しかも、シジュウカラは異なる鳴き声を組み合わせて文章を作ることができるという。例えば「ピーツピ(警戒して)、ヂヂヂ(集まれ)」という組み合わせ。音声ファイルをスピーカーから流すと、複数のシジュウカラが首を振りながら近づいてくる。さらに天敵のモズの剝製を置くと、羽を動かして威嚇し追い払おうとする。鈴木さんの実験では、語順を逆にすると意味が伝わらず、追い払い行動も見られなかった。文法があり、1羽が「ピーツピ、ヂヂヂ」の順で発した時だけ他の仲間が認識しているという。親鳥が発する警戒の鳴き声はひな鳥も理解。巣箱の中にいても、どんな天敵が迫っているのかを判断し、身を守る適切な行動を取っていることが分かった。
鈴木さんは「2000年以上昔から『言葉を持つのは人間だけ』、鳥の鳴き声も感情が表れているだけと考えられてきたが、そうではない。研究で、シジュウカラは単語、文章を使い、文法のルールを認識してコミュニケーションを取っていることがわかってきた」と説明。世界初の解明で国際的な賞も受賞していて、「新たに立ち上げた『動物言語学』という分野を次世代に伝えていきたい」と望んだ。


興味深いシジュウカラの能力を知り、目からうろこの観客。釜石での講演に感謝の拍手を送った

「森の役割を再認識し、次世代につないでいくためには?」。さまざまな視点で意見を交わしたパネルディスカッション
講演に続くパネルディスカッションのテーマは「森の恵みに感謝し、豊かな森を未来に引き継ごう」。鈴木さんのほか、各界で活躍する5人がパネリストとして登壇。さまざまな観点から森林の保全、継承の重要性について話した。
盛岡市の料理研究家、小野寺惠さんは東京で子育て中に公害を経験。35年前に本県に移住した。「岩手の農産物は豊かな土壌、水から生まれる。きれいな空気も含め、全て岩手の森林によって作り出されたお宝」と絶賛。おおつち百年之業協同組合の佐々木重吾理事長は「水でつながる山川海の自然サイクルの中で私たちは生かされている。謙虚になり、今の森を大事に守っていかねば。1次産業は持続性に危ういところがあるが、複数の産業が連携し雇用を生めば、独自の経済圏を作り出せるのではないか」と話した。

写真左上:小野寺惠さん(メグミプランニング代表)、同右上:佐々木重吾さん(おおつち百年之業協同組合理事長)
岩手大農学部地域環境科学科の伊藤幸男教授は「森があること自体が大きな富。林業経営をうまく成り立たせるような制度、政策を今、構築しておかないと、次世代への継承が難しくなる」と指摘。大槌町でジビエ事業を手がけるMOMIJIの兼澤幸男代表はシカによる森林被害を減らし、土砂災害の危険性や生物多様性の低下を防ぐ同社の取り組みを紹介。次世代に豊かな森を残すためには「自然との共生が不可欠。森での体験活動を通じて子どもたちにも興味をもってもらえるようにしたい」と話した。

写真左上:伊藤幸男さん(岩手大農学部地域環境科学科教授)、同右上:兼澤幸男さん(MOMIJI代表)
釜石地方森林組合の高橋幸男理事兼参事は「森林業の使命は山から受けている恩恵を次の世代に送っていくこと」とし、地域で森づくりを支える取り組みの必要性を示唆。「異業種の知恵を得ながらチャンスを広げ、やれることを明確にし、若い世代もやる気を持って参画できる仕組みにしていかなければ。森の多様性を生かし、持続可能な地域づくりにつなげていきたい」と未来を見据えた。各パネリストの話を受け、鈴木さんは「森の豊かさにはいろいろな切り口がある。『緑を守ろう』という話をしても、何らかの体験がないと、その言葉は響かない。自然とのつながりを感じられる体験機会を積極的に増やしていくことが大事」とアドバイスした。

釜石新聞NewS
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