「あの日を忘れない」釜石の記憶をつなぐ 震災題材の舞台3本立て 8、9日上演
震災の記憶をつなぐ公演に向けて稽古を重ねる演者たち
「あの3月11日を忘れない 一人の芝居とドラマリーディング」は3月8、9の両日、釜石市の2会場で上演される。同市の劇団もしょこむの小笠原景子さん(40)、東京の劇団黒テントの内沢雅彦さん(64)=同市大只越町出身=による一人芝居2演目と、地元の中高生ら3人を交えたドラマリーディング1演目という3本立て。どの演目も地元ゆかりの作家の著書を原作にし、東日本大震災の“記憶をつなぐ”と思いを込めて舞台を創る。
内沢さん出演「もう一人の私へ」は、鵜住居町出身の小説家沢村鐵(てつ)さんの短編が原作だ。「あの記憶に触れるときに平静でなどいられない。…脚色が不要どころか、悲惨すぎてぼかすことが必要な現実なのだから」。偶然が重なって被災を免れた一人の作家が“砂漠のような”更地のまちで生活する中で、あったかもしれない過去に思いをはせ、複雑な胸の内を息子への手紙につづる。文字として記された気持ちを自らに問いかけながら舞台に上がる。
小笠原さん出演「釜石の風」は、釜石高の教諭だった俳人照井翠さんのエッセーが原作。「私達は三月を愛さないし、三月もまた私達を愛さない」。惨状、混乱、残された人たちと苦悩…、そして復興に向かうまちの様子、希望。震災後に市内外の被災地を訪ね、見聞きしたこと、感じたことが記された一文一文を、演劇に写し出す。
震災を題材にした公演「あの3月11日を忘れない」のチラシ
内沢さんが地元の子どもらとタッグを組み上演する「自然とのかかわりを問い直す」の原作は、平田出身のフリーライター中川大介さんの著書「水辺の小さな自然再生」。巨大な防潮堤の建造、海との遮断、そしてでき上がった「安全なまち」への戸惑い…。古里・平田の変貌を記した部分を抜き出し、自然との関わりや向き合い方を問いかける。「恵みと厄災の双方を受け止め、自然と折り合っていく道を見つけることはできるだろうか」
「自然との~」は演者が体を動かしたりもするが、基本的には台本などのテキストを読んでいるのを見せるスタイル、ドラマリーディングという形で披露。高校生の森美惠さん(17)、中学生の川端俐湖さん(13)が出演。森さんの父・一欽さん(51)も参加し、「風化と伝承」をテーマに思いを話す。
公演を前に2月14日、リーディングチームが稽古。挿入する音源や間合いなどを確認した。昨年5月頃から月1回ほど、オンラインで読み合わせなどを行ってきた美惠さんは「哲学的で難しい部分もあるが、自分の知らない視点に触れられて興味深い」と楽しそうに話す。震災時は幼く、「記憶があまりない」。ただ、何かは感じていた。高校では震災伝承の活動にも取り組んでいるが、若い世代の語りに「葛藤している」。そんな中で得た、「あの日」を伝える機会。「私たちだから響くものがあるはず。そんな語りに新しさを感じてほしい」と思いを込める。
「自然とのかかわりを問い直す」の公演に向けて喫茶かりやで稽古
内沢雅彦さん(左)のアドバイスを聞く川端俐湖さん(右)と森美惠さん
震災があった2011年に生まれた川端さんは「経験はしていないけど、震災や防災に関心を持っている子どもはいる。これまでの学びや経験で感じた気持ちを思い出しながら、この話の主題、理解してほしいことを見つけて伝えたい」と向き合う。
この公演は23年に内沢さんが始めた。1人の活動が、翌年には小笠原さんが加わり、今回はさらに3人増えた。「演じることが何になるのだろうと思う時もあるが、語り、演じるしかない」と内沢さん。3つの作品によって、「共感できる見解でそれぞれの記憶を思い出し、語り合うだけでも意義があると思う」と話す。若い世代が手を挙げてくれたことをうれしく感じ、声の強弱や表情など熱心に助言していた。
楽しそうに取り組む若者2人を内沢さん(中)が見守る
小笠原さんは独自に稽古中。なぜ3月に被災地で演じるのか―。「つらいことを思い出させることに葛藤がある」というが、昨年演じたことで、「思い出す日は必要だ」と改めて感じている。「感情の記憶は人それぞれで、共感できる部分も違う。でも、深く、じっくり、誰か、何かを自分なりに思い出さないと忘れてしまう。つらいだけではない、あたたかさや感謝、乗り越えてきたことを…。そんな何かをゆっくり思う時間、感情を重ねるきっかけにしてもらえるよう演じたい」と思いを深める。
3月の公演に向けて独自に稽古を重ねている小笠原景子さん
自然災害が各地で頻発する中、「失ったものへの祈りや未来へのまなざしを確かめる」古里公演を企画し続ける内沢さん。「3・11に刻みつけた記憶、思いに向き合うきっかけになれば」と来場を呼びかける。
◇公演スケジュール
【昼の部】会場は喫茶かりや(釜石市大町)。料金は1000円(ドリンク別)。
8日午後2時から「もう一人の私へ」、午後5時から「自然とのかかわりを問い直す」
9日午後1時30分から「自然とのかかわりを問い直す」、午後4時から「釜石の風」
【夜の部】会場はジャズ喫茶タウンホール(同)。料金は1000円(ドリンク別)。
8日「釜石の風」、9日「もう一人の私へ」。いずれも午後7時半から。

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