「今こそつなぐ」釜石艦砲射撃の記憶 体験者の証言集めた映画 8月、釜石皮切りに上映開始


2023/06/01
釜石新聞NewS #防災・安全

8月に釜石で初公開される艦砲射撃を扱った映画のチラシ(右)。5月21日に釜石PITで行われた関係者向けの試写会(左)

8月に釜石で初公開される艦砲射撃を扱った映画のチラシ(右)。5月21日に釜石PITで行われた関係者向けの試写会(左)

 
 釜石市が太平洋戦争末期に受けた2度の艦砲射撃を題材にしたドキュメンタリー映画「廃墟と化した鉄の町 釜石艦砲射撃の記録」(都鳥伸也監督、85分)が、8月5日の釜石市を皮切りに県内上映を開始する。5月21日、同市大町の釜石PITで、映画制作に協力した市内関係者を招いての試写会が開かれた。今後、市民らでつくる釜石上映実行委員会が市内へのポスター掲示などを行い、本上映への多くの来場を呼び掛ける。
 
 同作品は、北上市を拠点に地域に根差した映画制作を行う双子の都鳥拓也さん、伸也さん(40)兄弟が企画。弟伸也さんが監督、兄拓也さんが撮影、編集を手がけた。終戦間際の1945(昭和20)年7月14日、8月9日の2度にわたり、米英軍による艦砲射撃を受け、壊滅的な被害を受けた釜石市。戦後70年以上が経過し、当時の戦禍を経験した人が年々少なくなっていく現状に危機感を覚え、体験者の生の証言とともに歴史資料、研究者の見解から戦災の真実を浮き彫りにした。
 
監督を務めた都鳥伸也さん(右)、撮影・編集・ナレーターを担当した兄拓也さん(左)

監督を務めた都鳥伸也さん(右)、撮影・編集・ナレーターを担当した兄拓也さん(左)

 
 2021年4月に撮影を開始。体験者10人に話を聞いた。インタビュー映像では戦争の恐怖、多くの尊い命が失われ、焼け野原となった市街地の惨状、反戦への強い願いが語られる。作中では釜石が標的となった理由、なぜ2度目の攻撃が行われたのかも研究者らの考察で明らかにする。作品後半では戦後、市民が取り組んできた釜石艦砲の記憶と記録の継承活動、高校生ら若い世代の平和運動も取り上げる。
 
映画の中で艦砲射撃の体験を語った釜石市民ら

映画の中で艦砲射撃の体験を語った釜石市民ら

 
 試写会にはインタビューを受けた艦砲体験者や市平和委員会のメンバーなど約30人が集まった。出演した体験者は90歳を超え、映画の完成を待たずして亡くなった方もいる。撮影時97歳と最高齢だった千田ハルさんは撮影の5カ月後、21年9月に亡くなった(享年98)。21歳の時に艦砲射撃にあった千田さんは戦後、仲間と立ち上げた詩人集団「花貌(かぼう)」の活動で、釜石艦砲記録集を刊行(1971-95年)。延べ300人以上の戦争体験証言を掲載した。自らの戦災体験を語り伝える活動も精力的に行った。
 
晩年に至るまで反戦、平和運動に力を注いだ故千田ハルさん

晩年に至るまで反戦、平和運動に力を注いだ故千田ハルさん

 
 試写会に足を運んだ千田さんの長女(69)は撮影時を振り返り、「(高齢で)取材も受けられなくなってきたころで、ちゃんと話せているか心配だったが、改めて映像を見て、こんなにもしっかりと考えを伝えていたんだと驚いた。まさに母の遺言のよう…」。これが最後のインタビュー映像となった。「平和を願い続けた母の思いがこの映画で少しでも多くの人に届けば」。
 
 都鳥さん兄弟は2021年に地元北上の戦災を取り上げたドキュメンタリー映画を公開。今作はそれに次ぐ県内の戦災記録作品となった。コロナ禍の影響で完成まで2年を要したが、その間、制作に関する報道を見て新たな証言者が現れたり、十分に考える時間ができたりとプラスに働いた面もあったという。監督の伸也さんは「釜石の艦砲射撃についてまとまった書籍はあまりなく、少ない資料からいろいろな積み上げが必要だった。時間をかけられたおかげで、これを見れば釜石艦砲の全容がほぼ分かるという内容にはなったと思う」。ロシアによるウクライナ侵攻で戦争の悲惨さを目の当たりにする今-。「真の平和を後世につないでいくためにも戦争体験者の言葉に耳を傾け、自分事として考えてほしい」。この映画でその思いを広く発信する。
 
映画に出演した藤原茂実さん(中央)は試写会にも出席した

映画に出演した藤原茂実さん(中央)は試写会にも出席した

 
多くの人たちに映画を見てもらいたいと思いを強くする関係者

多くの人たちに映画を見てもらいたいと思いを強くする関係者

 
 釜石上映会は8月5日、大町の市民ホールTETTOで開く。午前10時半と午後2時からの2回上映。料金は一般前売り1000円(当日1200円)、小中学生500円(前売り・当日共通)。8月20日には北上市文化交流センターさくらホール、9月23日には花巻市文化会館での上映を予定する。映画に関する問い合わせはロングラン映像メディア事業部(電話0197・67・0714)へ。

釜石新聞NewS

釜石新聞NewS

復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。

取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム


釜石のイベント情報

もっと見る

釜石のイチ押し商品

商品一覧へ

釜石の注目トピックス