「津波だ、逃げろ高台へ」コロナに負けず教訓つなぐ〜仙寿院で韋駄天競争、震災から10年 風化防ぐ


2021/02/18
復興釜石新聞アーカイブ #防災・安全

津波で浸水した只越町から津波避難場所となっている高台の仙寿院を目指し、元気に駆け出す親子

津波で浸水した只越町から津波避難場所となっている高台の仙寿院を目指し、元気に駆け出す親子

 

 津波発生時の迅速な高台避難を啓発する第8回「新春韋駄天(いだてん)競走」が7日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。東日本大震災の教訓をつなぐ2014年からの節分行事。新型コロナウイルス感染拡大下の今年、主催者(同院・釜石仏教会)は開催可否に悩んだが、「どんな時でも災害は起こり得る」との認識のもと、各種感染防止策を講じ実施に踏み切った。震災から間もなく10年―。参加者は自らの命を守る避難行動を体験し、悲劇を繰り返さない意識を高めた。

 

ゴールまであと少し。幼児も父母らとがんばって坂を登る

ゴールまであと少し。幼児も父母らとがんばって坂を登る

 

 参加資格を市内在住(または通勤・通学など)、開催日前2週間に県外滞在歴がないこととし、開催部門を例年の6部門から3部門に縮小。観客にもマスク着用、拍手での応援を呼び掛け。飛沫(ひまつ)拡散防止、3密回避などの対策を徹底した。

  

 1歳から47歳まで57人が参加。15組(31人)が参加した親子の部からスタートし、只越町の消防屯所付近から高台の仙寿院まで286メートル、高低差約26メートルのコースを必死に駆け上がった。小・中学生の部には19人が出場。中学生の硬式野球チーム「釜石ボーイズ」や釜石中陸上部の団体参加も。一般の部には男性7人が参加した。

 

ゴール前でラストスパートを見せる中学生。日ごろからスポーツで鍛えているだけあって余裕の表情⁉

ゴール前でラストスパートを見せる中学生。日ごろからスポーツで鍛えているだけあって余裕の表情⁉

 

 各部門の1位には、芝﨑住職から「福親子」「福少年」「福男」の認定書が授与された。

 

 「福親子」となった箱崎町の小林直哉さん(41)と次男大空(かなた)君(8)は初参加。走るのが好きという大空君は「楽しかった」と一言。10年前の震災で直哉さんは、鵜住居小児童だった長男と一緒に避難し、津波から逃れた。「自分も小学校から津波防災教育を受けて育った。あの時は自然に体が動いた」と振り返る。震災の翌年に生まれた大空君は同小の3年生。「この子たちも今、学校でしっかり教育を受けている。こういう経験はいざという時、必ず生きるはず」と直哉さん。

 

「福親子」「福男」「福少年」(前列左から)に輝いた参加者

「福親子」「福男」「福少年」(前列左から)に輝いた参加者

 

 「福少年」は釜石ボーイズの仲間と継続参加する山田町の田村葵里君(15)=山田中3年=。「震災で自宅が被災し、避難の大切さを身にしみて感じている。〝逃げる〟ことをみんなに広めていけたら」と思いを行動で示す。「福男」は甲子町の伊藤嶺司さん(20)=法政大2年=が初参加で手にした。「災害はいつ起こるか分からない。津波時の高台避難を〝福男〟になった身として後世に伝えていきたい」と意を強くする。

  

 芝﨑住職は「震災後に生まれた子どもたちの参加が増えてきた。教訓を伝えたいという親の意思の表れ。来年もぜひ、参加を」と呼び掛けた。

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