天明の大飢饉(ききん)苦悩、葛藤、命の大切さ描く 釜石市民劇場 栗林村舞台に創作劇


2024/03/04
釜石新聞NewS #文化・教育

第37回釜石市民劇場 天明飢餓事変「栗林村 タエの物語」=TETTO

第37回釜石市民劇場 天明飢餓事変「栗林村 タエの物語」=TETTO

 
 第37回釜石市民劇場(同実行委主催)は2月23日、同市大町の市民ホールTETTOで上演された。1986年の初演以来、郷土の先人の活躍や困難に立ち向かう人々の姿を描き続ける市民劇。今作は1780年代(江戸時代中期)に全国を襲った「天明の大飢饉(ききん)」にスポットをあて、地元民も直面したであろう窮状を物語化。栗林村(現同市栗林町)を舞台に据えて創作した。同地は1853年の「三閉伊一揆」で農漁民を率いた三浦命助(1820-64)の出身地。冷害、不作、飢饉で苦しい生活を強いられた時代が劇で浮き彫りになった。
 
 天明飢餓事変「栗林村 タエの物語」―と題して公演。脚本は、同劇場6年ぶりの作品提供となる川端美津雄さん(釜石市)が手がけた。天明の大飢饉は冷害や火山噴火で農作物が育たず、深刻な食糧難、疫病の流行により、全国で90万人もの死者が出たとされる未曽有の大惨事。東北は特にも被害が大きかったという。釜石地方の被害が明確に分かる資料は残っていないが、その惨状は想像に難くない。
 
物語は江戸時代中期の栗林村を舞台にしたフィクション

物語は江戸時代中期の栗林村を舞台にしたフィクション

 
いたずらで困らせるも、村人からかわいがられる少女タエ(右)が主人公

いたずらで困らせるも、村人からかわいがられる少女タエ(右)が主人公

 
 フィクションで描いた劇は、栗林村に住む少女タエを主人公に展開する。幼くして両親を亡くしたタエは祖母と生活。猟師の叔父にも助けられ明るく元気に育つが、冷夏や降霜による大凶作で村の生活は一変。村人は種もみや家畜を食べ尽くし、草や木の皮まで食して飢えをしのぐが、状況はさらに悪化。餓死者があふれ、地獄のような惨状が広がった。自然の猛威を鎮めるため、村人たちは長老おババ(婆)が発した言い伝え「人身御供」を信じ、村の子ども(タエ)を差し出そうとする。一度は逃げたタエだが、「自分が犠牲にならなければ他の子どもたちが…」。再び村人の前に現れたタエは、自ら人柱になろうとする。
 
冷害による凶作で飢餓状態の村を救うため、長老おババ(右から3人目)にすがる村人たち

冷害による凶作で飢餓状態の村を救うため、長老おババ(右から3人目)にすがる村人たち

 
タエを犠牲にしようとする村人に必死に抵抗する祖母サツ(右から3人目)と猟師の叔父善蔵(同2人目)

タエを犠牲にしようとする村人に必死に抵抗する祖母サツ(右から3人目)と猟師の叔父善蔵(同2人目)

 
天の神を鎮める「人身御供」の言い伝えを村人に教えてしまったおババにも、体を気遣う優しさを見せるタエ

天の神を鎮める「人身御供」の言い伝えを村人に教えてしまったおババにも、体を気遣う優しさを見せるタエ

 
 キャストは小学生から70代まで13人。スタッフ約30人が舞台を支えた。昨年11月から稽古や舞台製作などを進め、迎えた本番。メンバーが総力を結集した演劇に幅広い世代が感動とともに見入った。午前と午後の2回公演に計約500人が来場した。
 
 主人公タエを演じたのは、同市の小学6年生川端俐湖さん(12)。同劇への出演は2回目で、「主役はまだ回ってこないだろうと油断していた」と笑うが、堂々たる演技で観客を物語の世界に引き込んだ。村人を思い、自ら犠牲になることを決断するシーンには涙する客も多数。タエが崖から身を投げるクライマックスでは「自分も感情移入しすぎて泣いてしまった」と役者魂を見せた。異常気象、大規模自然災害、戦禍…と不安要素を抱える現代。川端さんは「食糧難は条件がそろえば、いつどこでも起こりうることを覚えて帰ってほしい」とメッセージを残した。
 
飢えで子どもを亡くした母親がやり場のない悲しみをタエにぶつけようとする

飢えで子どもを亡くした母親がやり場のない悲しみをタエにぶつけようとする

 
タエは「他の子が犠牲になるのは嫌」と自分の命を差し出す覚悟を決める(写真上、左下)。身を投げたタエへの思いを叫ぶ(右下)

タエは「他の子が犠牲になるのは嫌」と自分の命を差し出す覚悟を決める(写真上、左下)。身を投げたタエへの思いを叫ぶ(右下)

 
 今回は5人が初出演。肝いりの娘のいいなずけ(婚約者)俣作役の佐々木進輔さん(31)は演劇自体も初挑戦で、「やってみれば面白いものですね。普段、関わることがないような若い人たちとも交流できた」と貴重な機会に感謝。転勤で釜石に来て3年。「地域の歴史とかを知れたのも意義深い。お客さんにも喜んでいただけたよう」と充実感をにじませた。この日は職場の仲間も観劇。佐々木さんの上司樋口健さん(46)は「勤務時とはまた違う姿が見られた。練習もかなり頑張っていたようだ」と称賛。飢饉をテーマとした劇に「今の生活と比べると想像を絶するが、過去に起きた惨事を忘れないことも大事」と心に刻んだ。
 
肝いりの娘ハナ(右)と婚約した俣作役を演じた佐々木進輔さん(左)

肝いりの娘ハナ(右)と婚約した俣作役を演じた佐々木進輔さん(左)

 
 劇の舞台となった栗林町に住む川崎通さん(67)は肝いり加平役で初出演。町内会に「ぜひ地元からも」と出演依頼があり、引き受けることになった。「一番苦労したのはセリフを覚えること。動作を付けて演じるのは難しい」と実感する。定年後は、釜石観光ガイド会に所属し、市内の史跡などを案内することも。地元には三閉伊一揆の指導者の一人、三浦命助の顕彰碑(1963年建立)や墓もある。「栗林といえば三浦命助だが、その活躍の70年前にも苦難に立ち向かった先人たちがいた。そういう歴史にスポットが当たったのは地元にとっても良かった」と話した。
 
地元栗林を舞台にした演劇に初挑戦!肝いり加平役の川崎通さん(右)

地元栗林を舞台にした演劇に初挑戦!肝いり加平役の川崎通さん(右)

 
カーテンコールであいさつするおババ役の岩鼻美奈子さん(前列左)とタエ役の川端俐湖さん(同右)。写真左上は脚本の川端美津雄さん

カーテンコールであいさつするおババ役の岩鼻美奈子さん(前列左)とタエ役の川端俐湖さん(同右)。写真左上は脚本の川端美津雄さん

 
キャストの熱演、スタッフの労をねぎらい大きな拍手を送る観客

キャストの熱演、スタッフの労をねぎらい大きな拍手を送る観客

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