命を守るワークブック作成進む、鵜住居「いのちをつなぐ未来館」〜岩手大教員養成支援センター「生き抜く子どもを」教訓つなぐ


2021/03/08
復興釜石新聞アーカイブ #防災・安全

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

 

 釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長加藤孔子(こうこ)さん(63)=盛岡市、岩手大教員養成支援センター特命教授=らは、同館を訪れる小中学生の学習を手助けするワークブックづくりを進めている。東日本大震災から10年。人々の記憶から徐々に薄れ始め、学校では記憶のない世代が増えている。「あの日を知り、命を大切に未来へ生き抜く子どもを」。震災を経験した釜石出身の学生らが記憶と教訓を伝えようと取り組みを支える。

 

 この取り組みは岩手大の地域創生モデル構築活動を活用する。釜石の防災教育、震災を実体験した学生、院生ら7人が災害時に生かされた学習活動を伝える形で参加。加藤さんが中心となってまとめ、同大地域防災研究センターの福留邦洋教授が助言する。

 

 作成中のワークブック(津波てんでんこVer.1)は3章からなり、ステップ1で釜石を発信する「○○のまち」を解説し、見学前に地域を知ることから始まる。震災や防災を学ぶのがステップ2。館内でガイドが実際に説明するルートをたどりながら展示物の補足をする形にし、学習を効果的に進められるよう工夫。ステップ3では感想を書き込んだり、クイズで振り返りができるようにした。

  

 鵜住居小5年生の時に震災を経験した八幡桃子さん(教育学部3年)は、発災当日の避難行動などをまとめた。その過程で当時の怖い体験がよみがえる。「生きるのに必死だった。頑張って生きていると感じた」。子どもたちに伝えたいことは、命を守る大切さ。「自分事として捉え、できることを考えるきっかけに」と願う。

 

 震災をきっかけに教員を目指す佐々木伊織君(大学院総合科学研究科地域創生専攻修士1年)は大平中出身。被災していない自分が参加していいか迷いがあったというが、防災教育の一端を担う取り組みに「やりたいことを実現できた」と充実感をにじませる。

 

 高校時代に伝承活動に取り組んでいた野呂文香さん(教育学部1年)は、コロナ禍で思い描いていた生活が一変。限られた活動に割り切れない心情を抱えていた。そんな中で参加した伝える活動は、自身の学びへの意欲を呼び戻す力になった。「このワークブックはもっとレベルアップできる。未来館で実際に使われている様子を見学し、改善できたらいい」と新たな展開を見いだした。

 

 震災当時釜石東中教諭だった佐々木良一さん(教職大学院修士1年、現下橋中教諭)は、震災を記憶していない子どもたちの災害に対する反応が「他人事のようだ」と感じることがあり、「伝えることは、これからより必要な活動だ」と指摘する。

  

 釜石市から同大に派遣されている共同研究員の佐々木千里さんも、伝え続ける必要性を確信。釜石東中出身の岡道一平君(大学院総合科学研究科理工学専攻修士2年)は会合には不参加だったが、ワークブックの中に登場する「てんでんこレンジャー」の活動を紹介している。

 

 未来館職員で語り部の川崎杏樹さん(24)はリモートで参加。「来館者の多くは滞在時間が限られている。形として残るワークブックが伝えきれないことを補い、見学後にどこにいても防災を振り返るものに。知識のアンテナを広げる手段になるのでは」と期待を込める。

 

 加藤さんは震災当時に釜石小校長を務め、防災教育に力を注いでいた。その時に実体験した学生らが生の声、思いを込めて精力的に関わる活動に手応えを実感。「みんなに背中を押されて実を結んだ。私たちの役目は伝えること。自分の命を守る人が増えてほしい」と切に望む。

 

 ワークブックはA4サイズ、約30ページとなる予定。来年度から活用できるよう調整する。

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