老舗本屋、本設再出発「まちの文化」発信拠点に〜被災の桑畑書店

2017/08/02|カテゴリー:復興釜石新聞 地域

本設の営業再開を喜ぶ来場者に笑顔で応じる桑畑眞一さん

本設の営業再開を喜ぶ来場者に笑顔で応じる桑畑眞一さん

 

 東日本大震災の津波で釜石市只越町にあった店舗が全壊し、大只越町の仮設店舗で営業を続けてきた桑畑書店が24日、大町の本設店舗に移り、再スタートを切った。全てを失っても廃業は考えず、小さいながらも構えた仮店舗で市民らに読書、活字文化を届け続けて6年余り。本設という目標にやっとたどり着いた。店主の桑畑眞一さん(63)は「感慨よりも、これからの不安が大きい」と話しつつ、「気軽に入れる、本を待っているお客さんの要望に応えられる店にしたい」と力を込める。

 

 同書店は、桑畑さんの祖父が1935年に創業した。95年には2階建てに改築。売り場は約230平方メートル、事務所と2階ホールを合わせると約330平方メートルになり、市内では最大規模の書店だった。児童書や参考書を中心に品ぞろえを充実させ、ホールでは作家の講演会やコンサート、絵本の読み聞かせ会などが開かれ、まちの文化活動の拠点にもなった。

 

 震災では店舗、隣接する自宅とともに在庫約5万冊の書籍も流された。が、がれきの中から1冊だけ顧客名簿を発見。その名簿と記憶を頼りに自転車でかつての常連客約500人を訪ねて回った。雑誌の定期購読者も多く、「いつから配達するの?」「ぜひ店を再開して」と望む声が多かったという。

 

 桑畑さんは「何か考えている余裕はない。とにかく続ける」との思いで、震災から1カ月後、鈴子町に事務所を確保。注文があれば1冊から本を届け続けた。

 

 その7カ月後の11月には、プレハブの仮設店舗「青葉公園商店街」内に約30平方メートルの小さな店を構えた。桑畑さんは「前進はしたけど、売り上げは震災前の3分の1程度。いつつぶれてもおかしくない」と振り返る。震災後に開店した大型店に客が流れ、周辺の人通りはまばら。電子書籍やインターネット販売の伸びも、書店販売の落ち込みに影響したという。

 

 「在庫をそろえるだけで何千万円もかかる」「後継者もいないのに建物を残すのは嫌だ」。自宅があった場所での本設再建、店舗は持たず配達のみにするか―と悩み続け6年余り。予算的に挑戦できなかったとの悔いも残るが、「テナントなら」と出店を決めた。

 

仮設で6年 再開望む声に応え

 

大町災害公営住宅1階にオープンした新店舗

大町災害公営住宅1階にオープンした新店舗

 

 新店舗は大町1丁目の災害公営住宅の1階。売り場は約50平方メートルの広さだが、本棚には約1万冊の書籍、雑誌などが並ぶ。営業時間は午前10時から午後7時。ようやく開店にこぎ着けたが、「活字離れが進み、震災前に比べ並ぶ本の数も少なくなる中、客は来てくれるのか」と、桑畑さんの心配は絶えない。

 

 初日は午前9時半に開店。たまたま通りかかって開店を知った甲子町の30代の女性は、小さい頃から本の注文で世話になっていたといい、「いつの間にここに。また来ます」と、うれしそうに桑畑さんと言葉を交わした。野田町の佐藤裕子さん(63)は「地元に古くからある店が立ち上がってくれて、うれしい。買うことが再出発の一番のお祝いになるかと思って」と絵本など4冊を購入。これまではネットで注文していたが、手に取り選ぶ良さも実感していた。

 

 21日から3日間行った引っ越し作業には、中学、高校時代の同級生や震災後に出会った人ら約30人がボランティアでお手伝い。「震災で失ったものは多いが、いろんな人との出会いもあった。店があれば出会いもある。そういう縁を大切にしたい」と話した。

 

(復興釜石新聞 2017年7月29日発行 第609号より)

 

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